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デザイン関連書籍を中心にまとめや感想などを書きます

永原康史『インフォグラフィックスの潮流: 情報と図解の近代史』

インフォグラフィックスの潮流: 情報と図解の近代史

インフォグラフィックスの潮流: 情報と図解の近代史

本書はインフォグラフィックスの形成と各時代の代表的な作品を豊富な資料によって解説する。インフォグラフィックスという分野における良質な成果とそれを牽引してきた人々についての考察がなされる。情報デザインの理解を助ける内容となっている良書。

ちなみに「インフォグラフィックス」という言葉は、本書ではダイアグラム、チャート、グラフ、図解、ピクトグラムなどの情報の視覚化手法全体を示す言葉として使用している。

都市交通図

第一章では、ロンドン市交通局が20世紀初頭に生んだ地下鉄路線図、通称『ベックマップ』(1931-1960年前後)を中心とした、都市交通図の起こりからUERLのフランク・ピックが導いたCIやポスターグラフィックについての考察がある。

図解と統計

第二章では、レオンハルト・フックスの『新植物誌』(1542年)が、単に対象を描写した絵から、対象の概念を伝えるための描写を加えた図への転回が起こったポイントとして参照されている。フックスは、3種類の桜の枝を1本の木に描いた図を残し、変化する実、結実した花を同一の図にまとめ、絵としての描写を超越した表現を行っている。

ビュフォンの『博物誌』(1749-1804年)、ディドロとダランベールの『百科全書』(1751-72年)も見応えがある。

視覚言語

ブリントンによるグラフィックメソッド

1914年のウィラード・C・ブリントンによる『グラフィックメソッド』では、現代の私たちが用いるデータを可視化する方法のほとんどが解説されている。帯グラフ、円グラフ、チャート、ダイアグラム、棒グラフ、ピクトグラムグラフ、地図、チャート……。20世紀初期にはすでに体系化が進んでいたのである。

ノイラートによるアイソタイプ

同時代にはオットー・ノイラートによるアイソタイプも注目に値する潮流のひとつである。ゲルト・アルンツによるシンボル(ピクトグラム)制作と、のちのマリー・ノイラートによるトランスフォーメーションの功績が視覚言語の発展に大きく影響を与えた。

可視化と物語化

サリヴァンによるニュース図解

ピーター・サリヴァンは「グラフィックジャーナリズム」あるいは「ニュースグラフィック」と呼ばれる新しい情報デザインの領域をつくり、取材、編集、ドローイングまでを行ったという。活字中心の新聞に新しい表現を持ち込んだ。

タフティとチャートジャンク

エドワード・タフティによる情報デザインに関する著書『定量情報の視覚表示』(1983年)を皮切りに、研究成果を次々に出版している。統計情報の視覚化を中心とした定量的で客観的な表現を提唱し、分析と印象操作を含んだやり過ぎの装飾表現を「チャートジャンク」と名づけて、批判している。

ワーマンと理解のデザイン

情報デザインや情報アーキテクチャの分野をリードしていたリチャード・ソール・ワーマンは、物事を分かりやすく伝えるためのデザインを唱えている。

また、以下の書籍もインフォグラフィックス史上で参照したい。

  • ハーバート・バイヤーによる『ワールド・ジオ=グラフィック・アトラス』(1953年)
  • ウィルター・ハーデグ編『グラフィス・ダイアグラム』(1974年)

感想

ここまで体系化された文献はなかなかないので、歴史理解がはかどったのと丁寧な考察に満足している。

  • 地下鉄路線図のデザイン的な改良の過程は実に面白く、特に、駅の地理的なマッピングとトポロジカルなマッピングとの間での揺れ動きや、ニューヨークの地下鉄路線図における同様の問題については興味深いものがあった。
  • 絵と図の境目は難しいところだが、博物図譜の例は分かりやすく腑に落ちた。

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鳥海修『文字を作る仕事』

文字を作る仕事

文字を作る仕事

本書はフォント制作会社「字游工房」主宰の著者による自伝である。どのように文字づくりの道を目指して、何を作ってきたのか。何に影響を受けて著者の思想は形作られていったのか。「水のような、空気のような」書体を目指して活動してきた37年を振り返るという内容である。書体制作の現場を垣間見る気持ちで、平易な文章を楽しく読める。

大きく分けると二部構成になっていて、前半は著者の過去を振り返る章、後半は影響を受けた人々とのエピソードを集めた章となる。書体の作り方を次世代へ繋いでいく活動の紹介もある。

感想

著者が若い頃の話やロールモデルとなるような人との出会いが綴られているが、小さなきっかけが大きく花開いて「水のような、空気のような」書体を目指すというところへと繋がっていったということが分かった。

「自然」なものへと向かう価値観は特に新しくもなく、多くの人が持っているものだと思うのだが、徹底的に自らのフィールドでそれを体現しようとする姿勢こそがすごいのだと思う。普段何気なく目にしている文字の背後にあるストーリーは、聞いていて飽きない。

游明朝体の制作が「小説が読めるふつうの書体」を目指してはじまったというくだりを読んで、無性に小説を読みたくなった。

ものづくりの勇気をもらえる一冊としてお薦めしたい。

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文字のデザイン・書体のフシギ (神戸芸術工科大学レクチャーブックス…2)

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文字の美・文字の力

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磯部光毅『手書きの戦略論 「人を動かす」7つのコミュニケーション戦略』

本書は、コミュニケーション戦略をわかりやすく体系的にまとめた解説本である。マーケティング・コミュニケーションの領域を広く捉えるための最初の一冊として、活用しやすいと思う。各論の詳細は、専門書が多く出版されているのでそちらをあたったほうが良い(専門書のリストは巻末にまとまっていて重宝する)。

マーケティング戦略の一部としての「コミュニケーション戦略」は、半世紀の時を経て、時代とともに様々な手法や思想が編み出されてきた。その手法や思想は、時代に合せて進化を遂げてきたとは言え、伝統的な手法が現代においても通用しないということはなく、それを活用した企業活動はまだまだ十分に活用できるし存在しているというのが現在の状況としてある。

プランニングの現場では別々の人がさまざまな手法や思想を前提としてものを語っていて、著者はそれを「流派」という捉え方をしながら、ただ別個に捉えているだけでは不十分だと指摘する。そこで、各流派の歴史的な変遷と概観、そしてプランニングの方法をそれぞれ説明し、その関係性を提示しながら、コミュニケーション戦略を体系的に整理しようと試みるのが本書となる。

7つの戦略論と俯瞰

話は以下の8つの章に各論ごとに分けて、歴史を語るように進んでいく。よって、若い章ほど昔からある論ということになり、最終章に進むにつれて現代らしい(=インターネットを中心とした)話題になってゆく。

  • ポジショニング論(「違い」が、人を動かす。)
  • ブランド論(「らしさ」の記憶が、人を動かす。)
  • アカウントプランニング論(「深層心理」が人を動かす。)
  • ダイレクト論(「反応」の喚起が、人を動かす。)
  • IMC論(「接点」の統合が、人を動かす。)
  • エンゲージメント論(「関与」が人を動かす。)
  • クチコミ論(情報の「人づて」が、人を動かす。)
  • 7つの戦略論を俯瞰する(「戦略の統合」が、人を動かす。)

本書のエッセンスは、やはり8章の「7つの戦略論を俯瞰する」に凝縮されていると思う。

歴史と論争の視点

戦略論をめぐる歴史は大きく3つに分けられると示した上で、各時代には考え方の対立が存在していて、それらがどう影響し合い、進化してきたのかが語られる。以下はそのまとめ。心理学と重ねて行動感情理論が第3期の思想のベースにあると著者は言っている。

  • 第1期: 1940〜70年代 テレビ全盛時代の<ハードセル・ソフトセル論争>
    • ポジショニング論、ブランド論⇔ダイレクト論
  • 第2期: 1980〜90年代 経営との一体化時代の<相対価値・絶対価値論争>
  • 第3期: 2000年代〜 ネットコミュニケーション時代の<購買意思決定モデル論争>
    • IMC論、エンゲージメント論、口コミ論
    • ブランドエクスペリエンス論

感想

広告っぽい本を読むのは久しぶりだったが、言葉が平易であったため前提知識がほとんどない状態でもするすると読めた。個人的にはインターネット企業に勤めているというのもあって、ネット時代のモデルはなんとなく知っているという風な気持ちで読んでいたが、こうして粒が揃って並べられると、また違った趣があるものだと楽しめたし不足している着眼点を補填できたように思う。広告を顧客に寄り添う形で適切に選択していくことの重要性を改めて感じた。

また、情緒やイメージをベースにするブランド論は、最もデザイナーに関わりがあると思われる領域で、領域自体が広範囲ながら、ポイントがきれいに整理されている点が好印象。このあたりは個人的に掘り下げてみたい。

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ちなみに、本書はKindle版も用意されている。