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デザイン関連書籍を中心にまとめや感想などを書きます

D·A·ノーマン『誰のためのデザイン』

誰のためのデザイン?―認知科学者のデザイン原論 (新曜社認知科学選書)

誰のためのデザイン?―認知科学者のデザイン原論 (新曜社認知科学選書)

本書は、使いやすい製品はどのようにしてデザインされるのか、日常にある道具をいかにデザインするか、といった製造者やデザイナーが持つべき人間中心の考え方を解説している。ヒューマンインターフェースの文脈、認知科学の文脈における良く知られた文献であるとおもう。記憶のモデル、エラーの分析、人のもつメンタルモデル、行為の理論など、示唆に富む視点を多数紹介している。D・A・ノーマンはアメリカ合衆国の認知科学者。なお、ここで紹介する内容は「増補・改訂版」のものではない。

理解しやすさと使いやすさのためのデザインの原則

道具の使い方を誤ってしまったり、そもそもわからなかったりすることは日常的にある。この解決の一部として、認知の心理学や道具の心理学がある。デザイナーの、人間に関する知識と、ものがどのように機能するかに関する知識との両者が重要になると述べている。理解しやすく使いやすいデザインの基礎的な原則として以下の4つが提示される。

  • 良い概念モデルを提供すること
  • 十分な可視性を設けること
  • 良い対応付けを施すこと
  • 適切なフィードバックを提供すること

行為の心理学と行為の七段階

作業を難しくしているものはなにかを探るために、人間の行為の構造を検討している。ここでは、何かをしたいという「実行」と、それをができたかどうかをチェックする「評価」という2つの側面が、行為そのものに存在する、というのが基本的な考え方である。これをより詳細にしたものが以下の7つとして挙げられている。

  • ゴールの形成
  • 意図の形成
  • 行為の詳細化
  • 行為の実行
  • 外界の状況の知覚
  • 外界の状況の解釈
  • 結果の評価

D·A·ノーマン『誰のためのデザイン?―認知科学者のデザイン原論 (新曜社認知科学選書)』p.78

実行と評価のそれぞれの段階において、ユーザーとシステムとの間に生じるへだたりを解消するために、上記の7段階理論を用いたデザインに関わる質問が有効であるとして、その質問例が用意されている。この行為の七段階は、第1章で述べられているデザインの原則にそれぞれが相当するという。つまり、行為段階におけるへだたりの発生は、デザインの原則のいずれかが適切に施されていないことを予期させる。

正確な行動を行う理由

人の知識や記憶はあいまいである。不正確なことが多い。しかし、知識が不正確であっても正確な行動を行うことができる4つの理由をノーマンは挙げている。

  • 情報は外界にある
  • 極度の精密さは必要でない
  • 自然な制約が存在する
  • 文化的な制約が存在する

D·A·ノーマン『誰のためのデザイン?―認知科学者のデザイン原論 (新曜社認知科学選書)』pp.88-89

外界の知識と頭のなかの知識の間のトレードオフ

人間は全てを覚えられないが、外界にある情報も知識として利用できる。外界の知識によって頭のなかの知識を思い出したり、自然な対応付けによって頭のなかの知識を大幅に減らすことができる。外界の知識と頭のなかの知識のどちらを重視するかは、ある程度選択できるが、それにはトレードオフが存在している。

制約

デザインを適切な行為の手がかりとして機能させるために「制約」が利用できる。制約はユーザーが選択可能な選択肢の数をコントロールする。ここで提示されるその分類を挙げる。

  • 物理的な制約
  • 意味的な制約
  • 文化的な制約
  • 論理的な制約

制約に加えて、アフォーダンスによる「行為の可能性」のコントロールも同時に行うことで、全く新しい場面でもユーザーが直ちに適切な行為を行えるようにすることができるという。第4章の終わりでは、可視性とフィードバックの重要性にも再び触れられている。

エラー

エラーには様々な形態があるが、最も基本的なカテゴリーとして以下のふたつがあるという。

  • スリップ
    • ゴールと結果が食い違っている実行時のエラー
  • ミステーク
    • 不適切なゴールを選んでしまう思考のエラー

デザイナーは、エラーの原因を理解してそれが最も少なくなるようにデザインをしなければならない。また、エラーが生じた時に訂正しやすくしておくことが必要である。強制選択法は物理的な制約のひとつとして、ときたま起こる悲劇を避けるために活用できる。

デザインという困難な課題

デザインは自然に進歩するという。対象が単純だったり時間をかけられたり、以下のような個性の主張といった問題などがなければ:

  • デザイナーは、自分がそれに関わったという証拠とか印とかサインとでもいうものを残さなければならない

なぜデザイナーは正しい道からはずれてしまうのか

デザインの現場におけるそれぞれの配慮にはそれぞれの長所があるにも関わらず、デザイン界の褒賞のシステムが美を第一にしがちなことが、デザインの主要な部分である「デザインの対象がどのように使われるかを検討すること」をないがしろにしてしまっている。

また、デザイナーはデザインをする際に、自分が典型的なユーザーであると考えてしまうことが多く、自分の設計している道具に習熟し、頭の知識を活用した使用の態度を取ってしまうが、ユーザーが習熟するのはその道具を使って行おうとしている作業であって、特に初めて使うときやときたまの使用シーンではほとんどすべての情報を外界の知識に依存しなくてはならない。デザイナーはユーザーのエラーを予防し影響の最小化に努める必要がある。

多くの人が使いやすい道具をつくるために、制約を設けたり、柔軟性を取り入れたりすることは有効である。選択的注意の場面における配慮も忘れずにしたい。

機能追加と誤ったイメージ

機能追加主義に対する二通りのやり方として、ほんとうに必要と思われる機能だけを追加すること、適切な分割によるモジュール化を進めることがある。技術的な優秀さというみせかけには教育以外の治療法はない。

マニュアル

思ったほど役に立たない。ユーザーの多くはマニュアルを読まない。

作業の単純化

新しい技術の主たる役割は作業を単純にすることであるはずだ、とノーマンはいっている。つまり、それはユーザーの精神的負荷を減らし、分かりやすさを増したり、結果を理解しやすくしたり、対応付けを見やすくしたり、より自然な対応付けを可能にしたりする。以下の4つの技術を使った方法がありうる。

  • 技術をメンタルエイド(思考・記憶上の手助け)として利用できるようにする(作業は以前と同じまま)
  • 技術をつかってこれまで目に見えなかったものを見えるようにし、フィードバックや対象をコントロールする能力を向上させる(作業は以前と同じまま)
  • 技術によって自動化をすすめる(作業は以前と同じまま)
  • 技術によって作業の性質自体を変更する

感想

第4章までで、ユーザビリティに関する多くの理解が進んだ。原因の適切な理解が効果的なデザインの改善に繋がるという考え方はとても重要であると思う。本書で提示されているデザインの原則は、情報デザインの文脈においてはよく目にするものであるので、堅く心に留めておきたい。第5章以降では、より細かな事象についての視点に迫れたのがとても良かった。

全編にわたって内容に一貫性がない箇所や、やや冗長な部分、現代においては理解し難い例も取り上げられているが、よしなに読み替えて読み進める必要がある。これから本書を読むならば、改訂版(誰のためのデザイン? 増補・改訂版 ―認知科学者のデザイン原論)をおすすめする。

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