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デザイン関連書籍を中心にまとめや感想などを書きます

三谷龍二ほか『「生活工芸」の時代』

「生活工芸」の時代

「生活工芸」の時代

生活や暮らしへの関心が高まる今日の社会的状況を鑑みながら、日常における工芸品の価値を見つめなおしている。良いものとはなにか。良いものをいかにして選びとるか。そして、それを生活の中にどのように位置づけるのか。本書では、<「生活工芸とはなにか」という問いと「生活工芸の時代とは何だったのか」という問い>に、デザイナー、編集者、店主、人類学者、哲学者といった生業をもつ13人の執筆者がそれぞれ答えている。

モノの種類

本書で語られるモノには様々な種類がある。それは大きく分けると、古美術、古道具、手仕事の工芸品、工業製品といったものである。古美術や古道具は骨董ということばでもまとめられる。ある筆者は特定のモノについて述べていたり、また別の筆者はそれらを比較しながら述べていたりと様々。

歴史や文化的な背景を中心に論じる筆者以外の筆者の関心は機械生産されていない、工業製品以外のモノに向けられている。それはほとんどがその作者や生産地、制作年代への言及がある。誰々が作ったこれこれという風に。あるいは、どこどこ地方のこれこれという風に。作品性を帯びた工芸品にはその出処が重要である。また、そのモノが置かれる環境にもこだわりがみてとれる。

三谷氏は次のように生活工芸について語る。

ひょっとすると、生活工芸はモノだけでは語れないモノの世界。ひとや暮らしと繋がってはじめて見えてくる、モノの世界なのかも知れません。

「生活工芸」の時代』P.30

消費社会への批判

三谷氏は、消費社会の到来や製品製造過程の機械化、また、海外の労働力活用によって、手仕事のものや伝統的な産地が社会から取り残されていくことに違和感を感じているし、他の筆者も何かしらの居心地の悪さがあるようである。しかし、単なる消費社会批判で終わるのではなくそれの裏返しとして、生活工芸の時代におけるモノづくりの姿勢があったり、あるいはさらに未来の、モノと人間との関わり方について示唆のある言葉が述べられている。小林氏は「生活工芸」という言葉について、それが指す対象を深く理解しているわけではないと断りつつ、その定義を言語化している。

恐らくは人々の暮らしを中心に据えた物との関わりを再点検する試みとして、作り手、伝て手、使い手それぞれの立場へ投げかけられた問いの様なものだと解釈している。

「生活工芸」の時代』P.86

生活工芸の時代は、私たちの暮らしを見直す時代。広瀬氏は、近代日本の工芸トレンドの変遷を示し、2020年代のプレイヤーとはどういう人々なのかと思いを馳せる。

  • 第1期: 1930年〜1950年代
    • 大物ぞろいの文化的エリート作家
    • 使い手は、実業家や素封家など経済的エリート層
  • 第2期: 1960年〜1980年代
    • 個人作家の増加
      • 伝統工芸系、日展系、前衛系と幅が広がる
    • 使い手は、大企業のサラリーマンや中小企業の経営者
  • 第3期: 1990年〜2010年代
    • 生活道具に近い仕事をしている作家

また、井出氏はモノ消費を中心としたライフスタイルブームの変遷に注目しながら、「暮らし系」ムーブメントの本質に言及する。

「変化しない(上昇もし無い)日常生活を隅々まで徹底的にお洒落に彩る」というある種のラディカルさこそ「暮らし系」ムーブメントの本質であると言えよう。

「生活工芸」の時代』P.66

選択と消費が価値観を規定してゆく。

日本人にとって価値観の表明がモノの消費を通じて行われると仮定するならば、当然ながら「美」そのものもまた、既成のモノの中から「何を選ぶか」という形で規定していくものとなる。

「生活工芸」の時代』P.70

私たちのモノとの付き合い方や美的価値観の変化が概観され、次の時代のモノとの付き合い方を考えさせられる。

静かで建築空間に馴染むもの

鞍田氏は、21世紀における民藝の再評価と、かつて柳宗悦らによって提起された民藝運動の周辺について考察を行っている。機械の時代に失われた自然との接続を希求し、モノが置かれる環境を整えなおす試みとして自然回帰の潮流の一翼を担った民藝が、ゼロ年にはモノとしての民藝に対する共感だけではなく、「生き方」あるいは思想としての民藝の側面にも、人々の共感を寄せていると指摘する。

感想

数年前から静かに盛り上がりつつあった民藝が、ここ数年で急速にメディアで取り上げられるようになった。約1年前に出版された本書は、工芸周辺の社会的なトレンドを見直し、現在の民藝ブームの発端を探るのには良い。同時代のトピックを扱っているので、議論が発散しやすく明確な結論はないので、もやっとした読後感があるが、エッセイ集と思えば気軽に楽しく読めると思う。

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